売国奴お断り - No Traitors Allowed

日本のことについてとりとめのないことを綴っていくブログです。日本が嫌いな人は見てはいけません

反論『「就職する」ということがどういうことか知ってほしい 』

2010-12-14 経済

アゴラに掲載された『「就職する」ということがどういうことか知ってほしい 』という記事に対する簡単な反論。

BLOGSに掲載された橘玲氏の「牛丼と革命―未来世界のマックジョブ」を読んで、企業が正直に自分たちが欲しい人材を追求したときにこのような形に行き着くのだろうなと思った。

社畜云々の議論はここでは置いておく。リンク先を読めばおわかり頂けるだろうが、すき屋のゼンショーグループが徹底したマニュアル化と社員管理で生産性を上げているという話だ。その中でもここに注目して欲しい。

軍隊では、命令に従って敵兵や民間人を殺害したとしても、兵士個人の責任は問われない。同様にマックジョブでは、規則やルールに従っているかぎり、社員やクルーはいっさいの責任から解放されている。規定の時間内に決められた動作ができさえすれば人格は評価に関係ないのだから、人間関係で悩むこともない。マックジョブは、外国人労働者だけでなく、障害者や性的なマイノリティなど、差別の対象とされるひとたちも平等に扱うことができるのだ。

そう。ここで社員/クルーに求められているとしているのは、組織に忠実であること、規則やルールに従い規定の業務を遂行することであり、それ以上でもそれ以下でもない(実態がそうなのかどうかは別にして)。私などいかにも全共闘世代の考えそうな企業運営だと思ったが、この記事を読んだ限りではそれは経営者のポリシーであり、部外者が口を差し挟むようなことでもない。ところが、松岡氏はこの記事を紹介した後、こう続ける。

逆を言えば企業が最も欲しくない人材は「優秀で会社への忠誠心が低い人材」ということになる。いくら優秀でも辞められたら元も子もないので、採用する側にとって会社への忠誠心というのは非常に重要な要素である。

じゃあ「優秀じゃないけど忠誠心も低い人材」ならいいのかといった揚げ足取りはしない。「優秀で会社への忠誠心が高い人材」を企業は欲しているというだけなら当たり前のことだ。世界中の企業が求めている。政府だって求めている。だからこそ、

このようなことを知らずに就職活動を営んでいる学生が非常に多いように思う。就職活動自体に気を取られ、そのあとのことなど考えていない。今年の大卒の就職内定率は57.6%(文科省・厚労省調査)ということなので、ただ「職に就く」ということだけでも大変なことだとは理解出来る。だが、このような時代だからこそ、今一度「自分が何をしたいのか?」ぐらいは考えたほうがいいのでは思う。

ここで「自分が何をしたいのか?」などと自分探しをさせるような意見に首をかしげる。確かにやりたくもない仕事に就けば忠誠心を高めようがないというのも頷けない話ではない。だが、仮にそんなこと—自分が何をしたいか—を一生懸命考えて答えを得たとしても、それは組織への忠誠に全く関係しない。せいぜい就職先の選り好みが明確になるくらいだ。なぜか。 学生は就職説明会や面接などで担当者から企業についてある程度話を聞くことができる。就職サイトなどで情報を集めることができる。しかし、それは組織の外面をなでるだけの行為であり、彼/彼女が本当に知りたいこと、自分はこの会社でやっていけるか、この会社は自分を評価してくれるか、はわからないのである。選考に落ちるか、入社するかするまでは。

一般的によく知られている大企業に勤めること自体が、自分の自己実現と捉えている学生も多いだろう。特に有名大学出身者にはそのような傾向が強い。そして、念願の大企業に運良く就職出来ても、彼らはそれが自らが夢見ていた職場環境ではないことにがっかりしてあっさり辞めていく。

と筆者は言うが、私が学生だった時代から、自己実現を求めて就職する学生などいない。本気でそれを求める学生は起業するなり芸術に邁進するなり、いずれにせよ我が道を行く。ただ、数多ある面接マニュアルで入社して何をしたいか聞かれたら、中身のない人間だと思われないようにそう答えろと書いてあるからそう言ってるだけだ。それをちゃっかりしてるととるか、情けないととるかは人それぞれである。だが、就業経験といってもせいぜい末端のアルバイトであり、仕事と言われてもそれしか想像しようのない学生に、何をしたいと問う方がこの場合は愚かだろう。そういうのは中途採用の人間に聞くものだ。また、入社三年目までに辞めていく人間は「自らが夢見ていた職場環境ではないことにがっかりしてあっさり辞めていく」というのはその通りだが、夢見ていた職場環境の意味するところが違う。

ここで興味深い調査がある。独立行政法人 労働政策研究・研修機構が平成19年に行った若年者の離職理由と職場定着に関する調査である。この第一部 調査結果の概要、第1章 「若年者の職場定着にかかわる調査」(在職者調査)、2.中途採用者の前職の状況 では、

仕事満足度が低い者ほど、入社後3年 未満で離職した割合(勤続 3 年未満)が高い。

となっている。確かにこれだけを見ると筆者の述べることも肯けなくはない。しかし、

前職が「やりたい仕事をやらせてもらえない」状態であったかを尋ねたところ、やりたい仕事をやらせてもらえなかった者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 31.6%、 非正社員で 22.0%だった。

と続くに至って、あれっと思う。そう仕事内容に不満があって辞めた人間は正社員で3割ほどなのだ。

前職が「仕事の責任が重すぎる」(以下、「仕事の重責度」と略す。)状態であったかを尋ねたところ、仕事の重責度が高かった者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員 で 39.8%、非正社員で 22.2%だった。

入社して間もない社員が責任が重すぎると感じるのは少々おかしい。非正社員であればなおさらである。入社して3年など、まだ仕事を覚えるべき段階であり、責任どうこうが問題になる段階ではない。

規則やルールに従っているかぎり、社員やクルーはいっさいの責任から解放されている。

とは少し異なる企業実態がそこにはあるような気がする。

前職が「仕事量が多すぎる」状態であったかを尋ねたところ、仕事量が多すぎたとする者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 53.5%と 2 人に1人が仕事量の過多を感 じていた。非正社員でその割合は 29.5%であり、その内訳は、「パート・アルバイト」で 26.4%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 33.6%となっている。

若者が軟弱だからとか、若者の甘えというのは理由にならない。若者に問題があるのなら、なぜ一日八時間の仕事が多すぎると思うのかを分析し対応策を練るのが企業経営者(もちろん、教育関係者も)や労務管理担当者の仕事であり、一日八時間以上、つまり残業が定常化しているなら、やはりそれは企業の問題だからである。

前職が「求められるノルマ・成果が厳しい」状態であったかを尋ねたところ、ノルマ・成果が厳しいとする者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 40.2%と 4 割を占め る。非正社員のその割合は 18.5%であり、その内訳をみると、「パート・アルバイト」は 16.1%で、「パート・アルバイトを除く非正社員」が 21.6%となっている

くどいようだが、

規則やルールに従っているかぎり、社員やクルーはいっさいの責任から解放されている。

随分と実際は異なるようだ。さらに、

前職が「仕事上のストレスが過大である」状態であったかを尋ねたところ、ストレスが過 大だったとする者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 63.2%と、6 割以上が ストレスの過大を感じていた。非正社員でその割合は 34.4%で、その内訳は、「パート・ アルバイト」で 30.2%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 39.9%となっている。

という結果に至っては、むしろ企業の方がおかしいのではないかという懸念が増す。

前職が「労働時間が長すぎる」状態であったかを尋ねたところ、労働時間が長かったとす る者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 54.2%と、2 人に1人が長時間労働 を感じていた。非正社員でその割合は 25.3%であり、その内訳は、「パート・アルバイ ト」で 21.7%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 29.9%だった

これは労働条件が劣悪だと彼らが思っているということだ。

前職が「休暇が取りづらい」状態であったかを尋ねたところ、休暇が取りづらかった者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 57.7%と過半数に及んだ。非正社員でそ の割合は 36.1%であり、その内訳をみると、「パート・アルバイト」で 36.7%、「パー ト・アルバイトを除く非正社員」で 35.4%と 3 人に 1 人が休暇を取りづらいと感じていた

これもそう。

前職が「賃金が低すぎる」状態であったかを尋ねたところ、低賃金と思っている者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 52.9%、非正社員で 49.5%となっている。非 正社員の内訳をみると、「パート・アルバイト」で 51.8%、「パート・アルバイトを除く 非正社員」で 46.6%となっており、いずれの就業形態も半数は前職の自分の賃金は低すぎ ると感じていたことになる

なるほど。夢見ていた労働環境とは違ったわけだ。しかしそれは、自己実現がどうのこうのといった抽象的な理由などとは断じて違う。具体的な労働条件に不満があるのであって、若者は絵空事を言っているわけではない。

前の職場が「人を育てる雰囲気がない」状態であったかを尋ねたところ、人を育てる雰囲 気にないと思っていた者(「そう思う」+「ややそう思う」)は、正社員で 51.5%と、2人 に1人が人材育成に適した環境ではないと感じていた。非正社員ではその割合が 39.2%で、 その内訳をみると、「パート・アルバイト」で 34.2%、「パート・アルバイトを除く非正 社員」で 45.7%となっている

この結果に至っては、企業の労働環境が劣悪だったことを辞めた理由に挙げる人間が半数もいる。という事実に経営者は注目しなくてはならない。さらに、

前職の入社当初の配属先の教育等の体制(「教育・指導する担当者(メンター1)」及び「すぐに仕事上の質問ができる上司・先輩」)の有無を尋ねたところ、メンターについては、 正社員で 61.9%、非正社員では 56.0%が「いた」としている。非正社員の内訳をみると、 「パート・アルバイト」で 54.1%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 58.4%とな っており、いずれの就業形態も過半数は入社当初の配属先で、会社が設けた教育・指導担当 者(メンター)がいたことになる(図表 2-43)。 次に、仕事上の相談ができる上司・先輩の有無についてみると、正社員で 66.6%、非正 社員では 66.8%が「いた」としている。非正社員の内訳をみると、「パート・アルバイ ト」で 66.7%、「パート・アルバイトを除く非正社員」で 67.0%となっている。いずれの 就業形態にかかわらず、3人に2人が、入社当初の配属先で、仕事上の相談ができる上司・ 先輩がいたことになる

とあるように、一応体制は用意されているところが多いものの、それが実際的に機能していない企業があるという問題点が浮かび上がる。

前職の職場の人間関係を尋ねたところ、職場の人間関係が良好(「良好だった」+「まあ 良好だった」)は、正社員で 64.1%となっており、非正社員(特にパート・アルバイト。 72.6%)のほうが良好とする割合がわずかながら高くなっている

逆に言えば、正社員で辞めた人間の3人に1人は人間関係に問題があったと思っているということである。

次に、前職の勤続年数を職場の人間関係別にみると、正社員で職場の人間関係が良好にな るほど、勤続 3 年未満の割合(「半年未満」+「半年~1 年未満」+「1~3 年未満」)が低 くなる傾向にある。とくに「半年未満」をみると、職場の人間関係が良好ではなかったとす る者(20.8%)のほうが、良好だったとする者(5.5%)よりも 15.3 ポイント高くなっている

そして、早期に退職する者は人間関係で躓いていた者が多いという結果に至って、問題点がどこにあるか、なぜ若者がせっかく就職した会社を退職するのかの理由がひとつ明らかになってくる。

では、これの裏返しが、企業の求める「忠誠心の高い人材」なのだろうか。どんな仕事でも不平を抱かず、責任を押し付けられても文句も言わず多くの仕事を黙々とこなし、常態化した残業を厭わず、休みが取れなくても気にせずに安い給料で嬉々として働き、職場の人間関係など気にしない、むしろ問題があれば率先して解決する。馬鹿馬鹿しい。それは経営者や起業家のあり方であって、社員に求めるあり方ではない

事業拡大や後継のために経営人材を求めるというのであれば、確かにそういう人材でなければ、勤まらないというのはわかる。だがしかし、それはまだ学校も卒業していない人材に求める資質であろうか。とんでもない。それなら最初から経営者を募集すればいいのである。できるはずもないことを若者に押し付け、不景気をいいことにあまりにも都合のいいことを吹聴して恥じない経営者が多いことに吐き気すらする。バブル以降の就職難だって本当は作られたものであることは、過去の統計と比較すればよくわかる。昭和の世界大恐慌の折りですら、今ほどの就職難ではなかったのだ。(少年犯罪データベースドアの「就職は大恐慌時より今の方が厳しいのです」という記事を参照して頂きたい)バブル期の超売り手市場に振り回された経験があることを加味しても今の就職市場/労働市場は異常である。

となれば、元記事の内容がいかに企業経営者にだけ都合のよい欺瞞に満ちた、もしくは無知に基づく内容であるかわかるであろう。