故於是速須佐之男命言然者請天照大御神將罷乃參上天時山川悉動國土皆震爾天照大御神聞驚而詔我那勢命之上來由者必不善心欲奪我國耳卽解御髮纒御美豆羅而乃於左右御美豆羅亦於御鬘亦於左右御手各纒持八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠而自美至流四字以音下效此曾毘良邇者負千入之靫訓入云能理下效此自曾至邇以音附五百入之靫亦所取佩伊都此二字以音之竹鞆而弓腹振立而堅庭者於向股蹈那豆美三字以音如沫雪蹶散而伊都伊都二字以音之男建訓建云多祁夫蹈建而待問何故上來爾速須佐之男命答白僕者無邪心唯大御神之命以問賜僕之哭伊佐知流之事故白都良久三字以音僕欲往妣國以哭爾大御神詔汝者不可在此國而神夜良比夜良比賜故以爲請將罷往之狀參上耳無異心爾天照大御神詔然者汝心之淸明何以知於是速須佐之男命答白各宇氣比而生子自宇以下三字以音下效此
故是に速須佐之男命の言したまはく、然者天照大御神に請して罷り將らん、乃ち天に參上ります時に、山川悉に動み、國土皆震りき。爾に天照大御神聞きて驚かして詔たまはく、我が那勢命の上り來たる由は、必ず善しき心ならず。我が國を奪はんと欲ほすに耳[一]。卽ち御髮を解き、御美豆羅に纒かして、左、右の御美豆羅にも、亦御鬘にも、亦左右の御手にも、各八尺の勾璁の五百津の美須麻流の珠を纒き持たして美自り流に至る四字は音を用ゐる。下も此に效ふ。曾毘良邇は、千入の靫を負ひ入を訓みて能理と云ふ。下も此に效ふ。曾自り邇に至るまで音を用ゐる、五百入の靫を附け、亦伊都の竹鞆を伊都の此の二字は音を用ゐる取り佩して、弓腹振り立てて、堅庭は、向股に蹈み那豆美三字は音を用ゐる。沫雪如す蹶散して、伊都伊都の此この二字は音を用ゐるの男建建を訓みて多祁夫と云ふ蹈建びて待問たまはく、何故上り來ませる。爾に速須佐之男命答白したまはく、僕は邪き心無し。唯大御神之命以ちて、僕之哭き伊佐知流事を問ひ賜ひし故に、僕は妣國に往らんと欲ひて哭くと白し都良久三字以音、大御神、汝は此の國にな在みそと詔たまひて、神夜良比夜良比賜ふ故に、罷往なさんとする狀を請さんと以爲てこそ參上耳れ。異き心無し。爾に天照大御神詔たまはく、然者汝の心淸明は、何以して知らまし。是に速須佐之男命答白していはく、各宇氣比て子生まな宇自り以下三字は音を用ゐる。下も此に效ふ[二]。
そこで速須佐之男命は「それなら姉の天照大御神にお別れを言ってから行きたい」と仰って、すぐに天上に昇られた。この時、山や川は鳴り響き、全土は震えた。天照大御神は、その音を聞いて驚き「私の弟が登ってくるのは、よからぬ目的でだろう。私の国を奪おうとしているに違いない」と言って、髪を解き、男のようにみずらに巻いて、左右のみずらにも、鬘にも、また左右の手にも八尺の勾玉を五百個貫いた御統(みすまる)の玉を巻き、背には千本もの矢が入る靫を背負い、(脇には)五百の矢が入る靫を付け、弓を振り立てて、堅い土を踏みならせば、股まですっぽり沈むほどで、まるで雪を踏むようでした。大御神は鋭く猛々しい雄叫びを上げて須佐之男命を待ち受け、問いかけられました。「お前は何のためにここまで昇ってきたのか」すると須佐之男命は「僕には邪心はありません。ただ伊邪那岐の大御神が僕に『お前はなぜいつも泣き叫んでいるのか』とお訊ねになったので『僕は妣の国に行きたいと思って泣くのです』と答えたら、『ではお前はこの(地上の)国に住んではならん』と仰って、僕を追い出されました。だからこれから妣の国へ行きたいと思います。それでお別れを言うためにやって来ました。その他に何の意図もありません」とお答えになられた。天照大御神は「ではお前に邪心がなく、清らかな心であることをどうやって知ることができるだろう」と仰った。速須佐之男命は「互いに誓いを立てて、それぞれに子供を産みましょう」と提案なされた。
故爾各中置天安河而宇氣布時天照大御神先乞度建速須佐之男命所佩十拳劒打折三段而奴那登母母由良邇此八字以音下效此振滌天之眞名井而佐賀美邇迦美而自佐下六字以音下效此於吹棄氣吹之狹霧所成神御名多紀理毘賣命此神名以音亦御名謂奧津嶋比賣命次市寸嶋上比賣命亦御名謂狹依毘賣命次多岐都比賣命三柱此神名以音速須佐之男命乞度天照大御神所纒左御美豆良八尺勾璁之五百津之美須麻流珠而奴那登母母由良爾振滌天之眞名井而佐賀美邇迦美而於吹棄氣吹之狹霧所成神御名正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命亦乞度所纒右御美豆良之珠而佐賀美邇迦美而於吹棄氣吹之狹霧所成神御名天之菩卑能命自菩下三字以音亦乞度所纒御鬘之珠而佐賀美邇迦美而於吹棄氣吹之狹霧所成神御名天津日子根命又乞度所纒左御手之珠而佐賀美邇迦美而於吹棄氣吹之狹霧所成神御名活津日子根命亦乞度所纒右御手之珠而佐賀美邇迦美而於吹棄氣吹之狹霧所成神御名熊野久須毘命自久下三字以音幷五柱於是天照大御神告速須佐之男命是後所生五柱男子者物實因我物所成故自吾子也先所生之三柱女子者物實因汝物所成故乃汝子也如此詔別也
故、爾に各も天安河を中に置きて宇氣布時に、天照大御神、先ず建速須佐之男命の佩せる十拳劒を乞ひ度して、三段に打ち折りて、奴那登母母由良邇此の八字は音を用ゐる。下も此に效ふ、天之眞名井に振り滌ぎて、佐賀美邇迦美て佐自り下の六字は音を用ゐる。下も此に效ふ、吹き棄つる氣吹之狹霧に成りませる神の御名は、多紀理毘賣命此の神の名は音を用ゐる、亦の御名は、奧津嶋比賣命と謂す。次に市寸嶋上比賣命、亦の御名は狹依毘賣命と謂す。次に多岐都比賣命三柱。此の神の名は音を用ゐる。速須佐之男命、天照大御神の左の御美豆良に纒かせる八尺勾璁之五百津之美須麻流の珠を乞ひ度して、奴那登母母由良爾、天之眞名井に振り滌ぎて、佐賀美邇迦美て、吹き棄つる氣吹之狹霧に成りませる神の御名は、正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命。亦右の御美豆良に纒かせる珠を乞ひ度して、佐賀美邇迦美て、吹き棄つる氣吹之狹霧に成りませる神の御名は、天之菩卑能命菩自り下三字は音を用ゐる。亦御鬘に纒かせる珠を乞ひ度して、佐賀美邇迦美て、吹き棄つる氣吹之狹霧に成りませる神の御名は、天津日子根命。又左の御手に纒かせる珠を乞ひ度して、佐賀美邇迦美て、吹き棄つる氣吹之狹霧に成りませる神の御名は、活津日子根命。亦右の御手に纒かせる珠を乞ひ度して、佐賀美邇迦美て、吹き棄つる氣吹之狹霧に成りませる神の御名は、熊野久須毘命久自り下三字は音を用ゐる。幷せて五柱。是に天照大御神、速須佐之男命に告たまはく、是の後に生れませる五柱の男子は、物實我が物に因りて成りませり。故、自から吾が子也。先に生れませる三柱の女子は、物實汝が物に因りて成りませり。故、乃ち汝が子也。如此詔別たまいき。
そこで、天の安河を間に挟んでお立ちになり、互いに誓いを立てられた時、まず天照大御神が建速須佐之男命の身に着けておられた十拳劔を頼んで貰い受けて、三段に打ち折り、玉の音をさせながらゆらゆらと天の真名井の水に振り動かしてお洗いになられた後、バリバリとかみ砕かれて、霧にしてお吹きになられました。その霧の中からお生まれになられた神様のお名前は、多紀理毘賣命、またの名は奧津嶋比賣命と仰います。次に市寸嶋比賣命、またの名は狹依毘賣命と仰います。次に多岐都比賣命。合わせて三柱の姫神様がお生まれになられました。速須佐之男命は、天照大御神が左のみずらに纏いておられた八坂の勾玉の五百箇の御統の玉を頼んで貰い受け、玉の音をさせながらゆらゆらと天の真名井の水に振り動かしてお洗いになられた後、バリバリとかみ砕かれて、霧にしてお吹きになられました。その霧の中からお生まれになられた神様のお名前は、正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命です。次に右のみずらに纏いおられた玉を頼んで貰い受けて、バリバリとかみ砕かれて、霧にしてお吹きになられました。その霧の中からお生まれになられた神様のお名前は、天之菩卑能命です。次に、鬘に付けていた玉を頼んで貰い受けて、バリバリとかみ砕かれて、霧にしてお吹きになられました。その霧の中からお生まれになられた神様のお名前は、天津日子根命です。次に、左手に纏いておられた玉を頼んで貰い受けて、バリバリとかみ砕かれて、霧にしてお吹きになられました。その霧の中からお生まれになられた神様のお名前は、活津日子根命です。次に、左手に纏いておられた玉を貰い受けて、バリバリとかみ砕かれて、霧にしてお吹きになられました。その霧の中からお生まれになられた神様のお名前は、熊野久須毘命です。合わせて五柱の男神がお生まれになりました。このとき天照大御神は、速須佐之男命に「この後から生まれた五柱の男神たちは、その生まれた種となったものが私のものだったから、私の子です。先に生まれた三柱の姫神は、生まれた種となったものはあなたのものだったから、あなたの子です」と仰って振り分けられた。
故其先所生之神多紀理毘賣命者坐胸形之奧津宮次市寸嶋比賣命者坐胸形之中津宮次田寸津比賣命者坐胸形之邊津宮此三柱神者胸形君等之以伊都久三前大神者也故此後所生五柱子之中天菩比命之子建比良鳥命此出雲國造无邪志國造上菟上國造下菟上國造伊自牟國造津嶋縣直遠江國造等之祖也次天津日子根命者凡川內國造額田部湯坐連茨木國造倭田中直山代國造馬來田國造道尻岐閇國造周芳國造倭淹知造高市縣主蒲生稻寸三枝部造等之祖也
故、其の先に生れませる神[三]、多紀理毘賣命は、胸形の奧津宮に坐す。次に市寸嶋比賣命は、胸形の中津宮に坐す。次に田寸津比賣命は、胸形の邊津宮に坐す。此の三柱の神は、胸形君等が以ち伊都久三前大神也。故、此の後に生れませる五柱の子[四]の中に、天菩比命の子、建比良鳥命、此は出雲國造、无邪志國造、上菟上國造、下菟上國造、伊自牟國造、津嶋縣直、遠江國造等の祖也。次に天津日子根命は、凡川內國造、額田部湯坐連、茨木國造、倭田中直、山代國造、馬來田國造、道尻岐閇國造、周芳國造、倭淹知造、高市縣主、蒲生稻寸、三枝部造等の祖也。
このとき、先に生まれた神様のうち、多紀理毘賣命は宗像(大社)の奥津宮に鎮座しておられます。次の市寸嶋比賣命は同じく宗像の中津宮に、また田寸津比賣命は辺津宮におられます。この三女神は宗像の君たちが奉斎する三前の大神(宗像三女神)です。この後からお生まれになられた五柱の神様のうち、天菩比命の子には建比良鳥命がいらっしゃって、出雲国造、无邪志国造、上菟上国造、下菟上国造、伊自牟国造、津嶋縣直、遠江国造等の祖先となられました。次の天津日子根命は、凡川内国造、額田部湯坐連、茨木国造、倭田中直、山代国造、馬來田国造、道尻岐閇国造、周芳国造、倭淹知造、高市縣主、蒲生稻寸、三技部造等の祖先となられました。
爾速須佐之男命白于天照大御神我心淸明故我所生子得手弱女因此言者自我勝云而於勝佐備此二字以音離天照大御神之營田之阿此阿字以音埋其溝亦其於聞看大嘗之殿屎麻理此二字以音散故雖然爲天照大御神者登賀米受而告如屎醉而吐散登許曾此三字以音我那勢之命爲如此又離田之阿埋溝者地矣阿多良斯登許曾自阿以下七字以音我那勢之命爲如此登此一字以音詔雖直猶其惡態不止而轉天照大御神坐忌服屋而令織神御衣之時穿其服屋之頂逆剥天斑馬剥而所墮入時天服織女見驚而於梭衝陰上而死訓陰上云富登故於是天照大御神見畏開天石屋戸而刺許母理此三字以音坐也
爾に速須佐之男命、天照大御神に白したまはく、我が心淸明故に、我が生めりし子、手弱女を得つ。此に因りて言さば、自から我勝ちぬと云ひて、勝佐備此の二字は音を用ゐるに、天照大御神の營田の阿此の阿の字は音を用ゐる離ち、其の溝埋め、亦其の大嘗聞看す殿に、屎麻理此の二字は音を用ゐる散らしき。故、然爲雖も、天照大御神は、登賀米受たまはじて告たまはく、屎如すは、醉ひて吐き散ら登許曾此の三字は音を用ゐる。我が那勢之命、如此爲つらめ。又田阿離ち、溝埋むるは、地を阿多良斯登許曾阿自り以下七字は音を用ゐる、我が那勢之命、如此爲つらめ登此の一字は音を用ゐる、詔直したまえ雖、猶其の惡しき態止まずして轉てあり。天照大御神、忌服屋に坐しまして、神御衣織らしめたまふ時に、其の服屋の頂を穿ちて、天斑馬を逆剥に剥ぎて、墮とし入るる時に、天服織女見驚きて、梭に陰上衝きて死うせき陰上を訓んで富登と云ふ。故是に天照大御神畏見て、天石屋戸を開てて、刺し許母理此の三字は音を用ゐる坐しましき。
そこで速須佐之男命は天照大御神に「私の心が清かったから、私が生んだ子は優しい手弱女だった。つまり私の勝ちだ」と仰って、勝ち誇った勢いで、天照大御神のお作りになられていた田の畔を切り崩し、溝を埋めてしまわれた。また大御神が大嘗を召し上がる殿に、糞をしてまき散らされた。しかし天照大御神はおとがめになられず「私の弟が糞をしたのは、酔っぱらって吐き散らしたのでしょう。また田の畔を切り崩し、溝を埋めたのは、その場所が田にできるのにと惜しんだのでしょう」とおかばいになられたが、その悪行はやまず、見ていられないほどであった。天照大御神が忌服屋にいて、神御衣を織らせていたとき、その服屋の屋根に穴を開け、逆剥ぎにした天斑馬をそこから落とし入れられたところ、天衣織女は驚いて、梭で陰部を突いて死んでしまった。天照大御神はこの様子を見ておそろしくなられ、天石屋戸におこもりになられた。
爾高天原皆暗葦原中國悉闇因此而常夜往於是萬神之聲者狹蠅那須此二字以音滿萬妖悉發是以八百萬神於天安之河原神集集而訓集云都度比高御產巢日神之子思金神令思訓金云加尼而集常世長鳴鳥令鳴而取天安河之河上之天堅石取天金山之鐵而求鍛人天津麻羅而麻羅二字以音科伊斯許理度賣命自伊下六字以音令作鏡科玉祖命令作八尺勾璁之五百津之御須麻流之珠而召天兒屋命布刀玉命布刀二字以音下效此而內拔天香山之眞男鹿之肩拔而取天香山之天之波波迦此三字以音木名而令占合麻迦那波而自麻下四字以音天香山之五百津眞賢木矣根許士爾許士而自許下五字以音於上枝取著八尺勾璁之五百津之御須麻流之玉於中枝取繋八尺鏡訓八尺云八阿多於下枝取垂白丹寸手青丹寸手而訓垂云志殿此種種物者布刀玉命布刀御幣登取持而天兒屋命布刀詔戸言禱白而天手力男神隱立戸掖而天宇受賣命手次繋天香山之天之日影而爲鬘天之眞拆而手草結天香山之小竹葉而訓小竹云佐佐於天之石屋戸伏汙氣此二字以音蹈登杼呂許志此五字以音爲神懸而掛出胸乳裳緖忍垂於番登也爾高天原動而八百萬神共咲
爾ち高天原皆暗く、葦原中國悉に闇し。此に因りて常夜往く。是に萬神之聲は、狹蠅那須此二字は音を用ゐる滿はき、萬妖悉に發りき。是を以て八百萬神、天安之河原に神集ひ集ひて集を訓みて都度比と云ふ、高御產巢日神之子、思金神に思はしめて金を訓みて加尼と云ふ、常世長鳴鳥を集へて鳴かしめて、天安河之河上之天堅石を取り、天金山之鐵を取りて、鍛人天津麻羅麻羅の二字は音を用ゐるを求て、伊斯許理度賣命伊自り下六字は音を用ゐるに科せて鏡を作らしめ、玉祖命に科せて八尺勾璁之五百津之御須麻流之珠を作らしめて、天兒屋命、布刀玉命布刀の二字は音を用ゐる。下も此に效ふ召びて、天香山之眞男鹿之肩を內拔きに拔きて、天香山之天之波波迦此の三字は音を用ゐる。木の名を取りて、占合麻迦那波麻自り下四字は音を用ゐるしめて、天香山之五百津眞賢木を、根許士爾許士許自り下五字は音を用ゐるて、上枝に八尺勾璁之五百津之御須麻流之玉を取り著け、中枝に、八尺鏡八尺を訓みて八阿多と云ふを取り繋け、下枝に白丹寸手、青丹寸手を取り垂て垂を訓んで志殿と云ふ、此の種種物は、布刀玉命、布刀御幣登取り持たして、天兒屋命、布刀詔戸言禱白して、天手力男神、戸の掖に隱り立たして、天宇受賣命、天香山之天之日影を手次に繋けて、天之眞拆を鬘と爲て、天香山之小竹葉小竹を訓みて佐佐と云ふを手草に結ひて、天之石屋戸に汙氣此の二字は音を用ゐる伏せて、蹈み登杼呂許志此の五字は音を用ゐる、神懸り爲て、胸乳を掛き出で裳緖を番登に忍し垂れき。爾高天原動りて、八百萬神共に咲ひき。
たちまちのうちに高天の原はすっかり暗くなり、葦原の中つ国は闇に沈んだ。そのまま何日も常夜のような日が続いた。そのため悪神たちがおとずれて、蠅のようにわき出して満ち、あらゆる災いが起こった。そこで八百万の神々は天の安河の河原に集まり、高御産巣日神の子、思金神に対策を考えさせた。まず常世の長鳴鳥を集めて夜明けが来たように時を作らせた。天の安河のほとりの堅い石と、天金山の鉄を取り、鍛冶師の天津麻羅を招いて、伊斯許理度賣命に鏡を作らせた。また玉祖命に八尺の勾玉の五百箇の御統の玉を作らせた。天児屋命と布刀玉命を呼び寄せ、天香山の真男鹿の肩の骨を抜き、天香山の天の波波迦を燃やした火で骨を灼いて占わせた。また天香山の五百本の真賢木を根こそぎ取って、上の枝には八尺の御統の玉を取り付け、中ほどの枝には八尺鏡をかけ、下の枝には白和幣、青和幣を垂らした。これを布刀玉命が太御幣としてお持ちになり、天児屋命が太祝詞を唱えられた。天手力男神を戸の蔭へ隠れさせた。天宇受賣命は天香山の天の日影葛を襷に掛けられ、天の真拆を鬘にされ、天香山の笹の葉を腕輪にお付けになられた。その姿で石屋の前に伏せて置いた桶の上で踊って踏み鳴らし、神懸かりになって乳房をかき出し、裳の紐を押し下げて陰部まで露わにされた。そのため高天の原はどよめいて、八百万の神々は一斉に大笑いなされた。
於是天照大御神以爲怪細開天石屋戸而內告者因吾隱坐而以爲天原自闇亦葦原中國皆闇矣何由以天宇受賣者爲樂亦八百萬神諸咲爾天宇受賣白言益汝命而貴神坐故歡喜咲樂如此言之間天兒屋命布刀玉命指出其鏡示奉天照大御神之時天照大御神逾思奇而稍自戸出而臨坐之時其所隱立之天手力男神取其御手引出卽布刀玉命以尻久米此二字以音繩控度其御後方白言從此以內不得還入故天照大御神出坐之時高天原及葦原中國自得照明於是八百萬神共議而於速須佐之男命負千位置戸亦切鬚及手足爪令拔而神夜良比夜良比岐
是に天照大御神、怪しと以爲ほして、天石屋戸を細めに開きて、內より告たまへるは、吾が隱り坐すに因りて天原自から闇く、亦葦原中國皆闇けんと以爲ふを、何由以、天宇受賣は樂び爲、亦八百萬神諸咲ふぞと。爾ち天宇受賣、汝が命に益りて貴き神坐すが故に歡喜咲樂ぶと白言しき。如此言す間に、天兒屋命、布刀玉命、其の鏡を指し出でて、天照大御神に示せ奉る時に、天照大御神、逾奇しと思ほして、稍戸自り出でて、臨み坐す時に、其所隱り立ちたる天手力男神、其の御手を取り引き出だしまつりき。卽ち布刀ふと玉命、尻久米此の二字は音を用ゐる繩を、其の御後方に控き度して、此從り內にな還りましそと白言しき。故、天照大御神出で坐せる時に、高天原及葦原中國も自から照り明かりき。是に八百萬神共に議りて、速須佐之男命に千位置戸を負はせ、亦鬚を切り、手足の爪を拔かしめて、神夜良比夜良比岐。
このとき、天照大御神は「奇妙だ」とお思いになり、石屋の戸を少しだけお開きになって「私がここに籠もったので、高天の原は暗くなり、葦原の中つ国も真っ暗だと思うのに、どうして天宇受賣は神遊びの舞をしていて、八百万の神々はみんな楽しそうに笑っているのか」と尋ねられた。そこで天宇受賣は「大御神にも優って尊い神様がいらっしゃったので、みんなで神遊びしています」とお答えになった。この間に、天兒屋命と布刀玉命は隙間から鏡を差し入れて、天照大御神に見せた。天照大御神は鏡に映った自分の姿を来訪した神の姿と思い、いよいよ不思議に思って、もっとよく見ようと、身を少し石屋戸の外に乗り出したとき、そばに隠れて立っておられた天手力男神がその手を取って引き出された。ただちに布刀玉命は尻久米繩を大御神の背後に張り「ここより内へお帰りになりませんよう」と仰った。こうして天照大御神が再び姿をお現しになられたので、高天の原と葦原の中つ国は元通り明るくなった。八百万の神々は相談して、速須佐之男命に大きな賠償責任を負わせになり、鬚を切り、手足の爪も抜かせて、高天の原から追放なされた。
又食物乞大氣津比賣神爾大氣都比賣自鼻口及尻種種味物取出而種種作具而進時速須佐之男命立伺其態爲穢汚而奉進乃殺其大宜津比賣神故所殺神於身生物者於頭生蠶於二目生稻種於二耳生粟於鼻生小豆於陰生麥於尻生大豆故是神產巢日御祖命令取茲成種
又食物を大氣津比賣神に乞ひたまひき。爾に大氣都比賣、鼻口及また尻自り、種種の味物を取り出でて、種種作り具へて進る時に、速須佐之男命、其の態を立ち伺ひて、穢汚ものを奉進ると爲ほして、乃ち其の大宜津比賣神を殺したまひき。故、殺さえたまへる神の身に生れる物は、頭に蠶生り、二目に稻種生り、二耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰に麥生り、尻に大豆生りき。故、是に神產巢日御祖命、茲を取らしめて、種と成したまひき。
また大氣都比賣神に食べるものを欲しいと仰った。そこで大氣都比賣は鼻・口・尻から様々な食べ物を取り出し、様々に料理して奉った。ところが物陰からその様子を窺っていた須佐之男命は「汚い物を食わせようとする」とお思いになられて、たちまち大氣都比賣を殺してしまわれた。その死体には、頭に蚕が生じ、二つの目には稲の種が生じ、二つの耳には粟が生じ、鼻には小豆が生じ、陰部には麦が生じ、尻に大豆が生じた。そこで神産巣日命はこれを取らせ、人々の食べ物の種とした。
故、所避追而、降出雲國之肥上河上、名鳥髮地。此時箸從其河流下。於是須佐之男命、以爲人有其河上而、尋覓上往者、老夫與老女二人在而、童女置中而泣。爾問賜之汝等者誰。故、其老夫答言、僕者國神、大山上津見神之子焉。僕名謂足上名椎、妻名謂手上名椎、女名謂櫛名田比賣。亦問汝哭由者何、答白言、我之女者、自本在八稚女。是高志之八俣遠呂智、此三字以音。毎年來喫。今其可來時。故泣。爾問其形如何、答白、彼目如赤加賀智而、身一有八頭八尾。亦其身生蘿及檜榲、其長度谿八谷峽八尾而、見其腹者、悉常血爛也。此謂赤加賀知者、今酸醤者也。
故、所避追而、降出雲國之肥上河上、名鳥髮地。此時箸從其河流下。於是須佐之男命、以爲人有其河上而、尋覓上往者、老夫與老女二人在而、童女置中而泣。爾問賜之汝等者誰。故、其老夫答言、僕者國神、大山上津見神之子焉。僕名謂足上名椎、妻名謂手上名椎、女名謂櫛名田比賣。亦問汝哭由者何、答白言、我之女者、自本在八稚女。是高志之八俣遠呂智、此三字以音。毎年來喫。今其可來時。故泣。爾問其形如何、答白、彼目如赤加賀智而、身一有八頭八尾。亦其身生蘿及檜榲、其長度谿八谷峽八尾而、見其腹者、悉常血爛也。此謂赤加賀知者、今酸醤者也。
爾速須佐之男命、詔其老夫、是汝之女者、奉於吾哉、答白恐不覺御名。爾答詔、吾者天照大御神之伊呂勢者也。自伊下三字以音。故今、自天降坐也。爾足名椎手名椎神、白然坐者恐。立奉。爾速須佐之男命、乃於湯津爪櫛取成其童女而、刺御美豆良、告其足名椎手名椎神、汝等、釀八鹽折之酒、亦作廻垣、於其垣作八門、毎門結八佐受岐、此三字以音。毎其佐受岐置酒船而、毎船盛其八鹽折酒而待。故、隨告而如此設備待之時、其八俣遠呂智、信如言來。乃毎船垂入己頭飮其酒。於是飮醉留伏寢。爾速須佐之男命、拔其所御佩之十拳劒、切散其蛇者、肥河變血而流。故、切其中尾時、御刀之刄毀。爾思怪以御刀之前、刺割而見者、在都牟刈之大刀。故、取此大刀、思異物而、白上於天照大御神也。是者草那藝之大刀也。那藝二字以音。
爾速須佐之男命、詔其老夫、是汝之女者、奉於吾哉、答白恐不覺御名。爾答詔、吾者天照大御神之伊呂勢者也。自伊下三字以音。故今、自天降坐也。爾足名椎手名椎神、白然坐者恐。立奉。爾速須佐之男命、乃於湯津爪櫛取成其童女而、刺御美豆良、告其足名椎手名椎神、汝等、釀八鹽折之酒、亦作廻垣、於其垣作八門、毎門結八佐受岐、此三字以音。毎其佐受岐置酒船而、毎船盛其八鹽折酒而待。故、隨告而如此設備待之時、其八俣遠呂智、信如言來。乃毎船垂入己頭飮其酒。於是飮醉留伏寢。爾速須佐之男命、拔其所御佩之十拳劒、切散其蛇者、肥河變血而流。故、切其中尾時、御刀之刄毀。爾思怪以御刀之前、刺割而見者、在都牟刈之大刀。故、取此大刀、思異物而、白上於天照大御神也。是者草那藝之大刀也。那藝二字以音。
故是以其速須佐之男命、宮可造作之地、求出雲國。爾到坐須賀此二字以音。下效此。地而詔之、吾來此地、我御心須賀須賀斯而、其地作宮坐。故、其地者於今云須賀也。茲大神、初作須賀宮之時、自其地雲立騰。爾作御歌。其歌曰、 夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁微爾 夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁 於是喚其足名椎神、告言汝者任我宮之首、且負名號稻田宮主須賀之八耳神。
故是以其速須佐之男命、宮可造作之地、求出雲國。爾到坐須賀此二字以音。下效此。地而詔之、吾來此地、我御心須賀須賀斯而、其地作宮坐。故、其地者於今云須賀也。茲大神、初作須賀宮之時、自其地雲立騰。爾作御歌。其歌曰、
夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁微爾 夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁
於是喚其足名椎神、告言汝者任我宮之首、且負名號稻田宮主須賀之八耳神。
故、其櫛名田比賣以、久美度邇起而、所生神名、謂八嶋士奴美神。自士下三字以音。下效此。又娶大山津見神之女、名神大市比賣、生子、大年神。次宇迦之御魂神。二柱。宇迦二字以音。兄八嶋士奴美神、娶大山津見神之女、名木花知流此二字以音。比賣、生子、布波能母遲久奴須奴神。此神、娶淤迦美神之女、名日河比賣、生子、深淵之水夜禮花神。夜禮二字以音。此神、娶天之都度閇知泥上神、自都下五字以音。生子、淤美豆奴神。此神名以音。此神、娶布怒豆怒神此神名以音。之女、名布帝耳上神、布帝二字以音。生子、天之冬衣神。此神、娶刺國大上神之女、名刺國若比賣、生子、大國主神。亦名謂大穴牟遲神、牟遲二字以音。亦名謂葦原色許男神、色許二字以音。亦名謂八千矛神、亦名謂宇都志國玉神、宇都志三字以音。幷有五名。
故、其櫛名田比賣以、久美度邇起而、所生神名、謂八嶋士奴美神。自士下三字以音。下效此。又娶大山津見神之女、名神大市比賣、生子、大年神。次宇迦之御魂神。二柱。宇迦二字以音。兄八嶋士奴美神、娶大山津見神之女、名木花知流此二字以音。比賣、生子、布波能母遲久奴須奴神。此神、娶淤迦美神之女、名日河比賣、生子、深淵之水夜禮花神。夜禮二字以音。此神、娶天之都度閇知泥上神、自都下五字以音。生子、淤美豆奴神。此神名以音。此神、娶布怒豆怒神此神名以音。之女、名布帝耳上神、布帝二字以音。生子、天之冬衣神。此神、娶刺國大上神之女、名刺國若比賣、生子、大國主神。亦名謂大穴牟遲神、牟遲二字以音。亦名謂葦原色許男神、色許二字以音。亦名謂八千矛神、亦名謂宇都志國玉神、宇都志三字以音。幷有五名。