反論【佐藤優の眼光紙背】尖閣ビデオ流出は官僚によるクーデターだ
少し前ツイッターでもつぶやいたのだが、論点を整理してまとめてみた。 これは、佐藤優氏の【佐藤優の眼光紙背】尖閣ビデオ流出は官僚によるクーデターだ に対する反論である。
規律の遵守など遵法意識を強調するなら、末端以上に上層部にこそそれが求められます。内閣が責任を放棄したから、この事件が起きたのであって、このような異常事態に陥ることのなかった戦後から現在までそんな事例はスパイ事件を除いて大きく問題になったことはなかったではありませんか。国民からすれば、内閣の打った手は裏切りであり、責任を那覇地検に押し付けたのは責任回避、職務怠慢以外の何者でもありません。公務員法第82条第2項では「職務上位の義務に違反し、または怠った者」「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」に対して懲戒処分を下すことになっています。内閣閣僚は特別職ですからこの規定が適用されることはありませんが、当然上が行き当たりばったりの遣りたい放題なら、下もそれに倣います。内閣閣僚や国会議員が免除されているのは、明治の頃からの慣例か、妙な制約を課すことで充分な議論が重ねられないまま重要な法案が採決されてしまうのを防ぐためか、いずれにせよ、政治家、内閣の自浄能力を前提とした信頼がそこにあるはずです。 しかし、以後の経緯を見てもことごとく政治判断を避け、現場に丸投げ状態が続くのを見て、国民が何を思うかおわかりでしょうか。
件の保安官について「一私人の立場として行動すべきだと思う。」と仰ってますが、退職したって守秘義務違反の疑いをかけられるのは変わらないわけで、元海保職員が暴露!などとマスコミがこぞってはやし立てるでしょうから組織防衛上も、もちろん件の保安官にしても状況は悪化するだけで何の解決にもなりません。現役だから問題なのだという論調は問題のすり替えです。
それに、五一五事件、二二六事件を引き合いに出すのなら、当然その社会的背景も考慮に入れなくてはなりません。世界大恐慌が始まっているのに金解禁を行うなど、経済政策は迷走し、じゃあそれを責任をもって収拾にあたる努力がなされ結果が出たかというととんでもない。無責任な政治に国民は振り回され、疲弊している一方で、大企業は為替を利用して空前の利益を上げるという状態にあった中で、あの事件は起きたのです。 はてさて今の状況と似てますね。今回、海保が首相官邸を襲って菅を射殺しましたか? 習志野の空挺団が閣僚を殺害して回ったあげく、陣を構えましたか? そうならないうちに芽を潰すべきだと仰るなら、まず民主党に大なたを振るべきでしょう。国民に様々な公約を訴え政権担当能力があるとマスコミを総動員してアピールして政権を取っておいてこのていたらく、実は詐欺でしたでは、反抗も起ころうというものです。 政治が無軌道だからそれに乗じて実力で自分の主張を通そうとする人間が出てくるのであって、逆ではないのですよ。そこを正さずして末端職員をバッシングするから国民に背を向けられるのです。
それにしても、何が秘密か判断できない幼稚な政治能力でことを運ぼうとするからあちこちぼろが出るのであって、そもそも中国漁船の船長逮捕を秘密にしなかった時点で、私は現内閣に政治判断などできないのだと見切りをつけました。もちろん中国は抗議してきたでしょう。うちうちに。そこからは外交です。丁々発止とやればいいんです。必要ならこっそり釈放して返したってよかったんです。中国側の譲歩を引き出した後で。いや、中国のことですから高々と公表したかも知れません。なら証拠のビデオを公開して輿論に訴えて是非を問えば良かったんです。もちろん中国は強硬姿勢を崩さないでしょうが、そこから譲歩を引き出すのが外交です。では今回は? 外交成果はマイナスです。対中外交に深く傷を残しました。
で、末端の職員のビデオ流出が何ですって? そもそも秘密を構成する要件の整っていない情報を流してどういうお咎めを受けなければならないのでしょう。せいせい内規違反で厳重注意が関の山でしょう。守秘義務違反だと気色ばんでいるのは仙石だけで、警察も検察も立件できるわけないことなど先刻承知です。ですが、官邸から圧力がかかってるのでほいほい釈放もできません。気の毒ですね。
それに公益通報者保護法のことをお忘れのようですが、国を上げて不正や問題があれば通報しろと法律をさだめておいて、自分たちに都合の悪い情報が出ると犯罪者呼ばわりとは何を考えているのでしょう。件のビデオの内容が公益に資する内容であったことは、中国がトーンダウンしたことからも明らかです。私などむしろこの件で内閣は外患誘致を企図しているあるいは黙認しようとしていると、刑事告発するものが出なかった方が不思議ですが。刑事訴訟法には公務員の告発義務が明記されてるのに。
話は変わりますが、尖閣は政府の面子がかかってるから何が何でも追い込んでやると随分官房長官はいきごんで特別チームまで派遣しましたが、そんなものより遙かに国益に直結した公安情報流出問題については、通り一遍の言葉を表明しただけで、特別チームを組んで徹底的にやるとか、責任者を罷免するとかそういう話はちっとも出てきませんね。尖閣ビデオなど比較にならないほどのまさに国家機密が漏洩したというのに。こういうダブルスタンダードがある限り、谷垣が世迷い言を言おうが、仙石が強弁しようが、世間は信用しません。
それに下克上が成功して国家が崩壊するのは、治世者に問題があって支持を得られないからです。考えるべきは問題の根を絶つことであって、ありもしないクーデターにおびえてヒステリックに個人攻撃をすることじゃないです。第一、あれほど国民の知る権利を連呼していた連中が、都合が悪くなると臆面もなく隠蔽をはかるという恥知らずな行動に出たことを不問に付すのは、自らの言論に対する裏切りであり、自らも政治に対する不誠実を抱えていると大声で叫んでいるようなものですよ。