「人口減少に対応した経済社会のあり方」に見る経団連の独善性
巷間、経団連が移民受け入れ1000万人を主張していることは賛否両論流布しているが、今一度原点に立ち返ってその主張が盛り込まれている「人口減少に対応した経済社会のあり方」に議論を加えてみようと思う。
冒頭「2.わが国人口の展望」で、2055年までに総人口が8000万人台になり、そのうち高齢者が半分近くを占める事態になるという。一方で、わが国は専門技術者などの高度人材の受け入れが18万人にとどまっていると述べる。
続いて「3.人口減少が経済・社会におよぼす影響」では、労働人口が現在の2/3にまで縮小するとし、「このような労働人口の縮小は、経済成長を少なからず抑制するように作用し続けると考えられる。」と結ぶ。さらに人口が縮小するということは生活必需品などの基礎的な財が売れなくなることを意味する。高齢者の嗜好は保守的だから買い替え、新規需要も見込めずこれも経済にマイナスとなる。住宅投資も高齢者が増えれば新築ではなく、改築・増築が主であろうから経済効果は望めない。
そして真打ち、財政・年金制度の維持可能性が取りざたされる。散々議論されている問題でもあり、本稿の目的でもないので割愛する。
ではどうするのかが、「4.中長期的な経済社会の活力維持に向けた方策」である。経団連が過去提起してきた内容が列挙される。
「一、2007年9月に「国・地方を通じた財政改革に向けて」を公表し、経済界の考え方を示した」
「一、2008年5月には「国民全体で支え合う社会保障制度を目指して」を公表して、制度横断的な見直しを訴えていた」
「一、直近では「税・財政・社会保障制度の一体的改革に関する提言」をとりまとめ緊急に求められる改革について提言を行った」 これを踏まえ、本提言では (1) 成長力の強化 (2) 未来世代の育成 (3) 経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保に焦点をあてる。
(1) 成長力の強化
持続的な経済成長は、所得の増加や雇用の創出を通じて、人々に豊かな暮らしをもたらす基盤となる。
そのために、①研究開発活動の促進、②イノベーションを担う人材の育成と招聘、③世界の成長力の取り込み、④地域の活性化と道州制の導入が必要だとする。
(2) 未来世代の育成
①少子化対策への真剣な取り組み=保育サービスの拡充で待機児童を解消する。産科・小児科医の確保。子育て世代への減税
②教育の再生=公立学校の質の向上。教員の質の向上が必要
(3) 経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保
①女性の社会進出の促進=政府への子育て世帯への支援の拡充、企業自身も職場環境の抜本的見直しや子育て環境の整備
②国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討
少子化対策が功を奏したとして効果が出てくるのは十数年の時間を要するので、アメリカや欧米を見習って移民を入れましょう
(a) 高度人材の積極受け入れ (高度人材は世界中で取り合いになっているので確かにこれは必要です)
(b) 留学生の受け入れ=高度人材の青田刈り
(c) 一定の資格・技能を持つ外国人材の受け入れ。単純労働者については他国で発生した様々な問題を勘案し、今後議論を深めていく必要あり。
③受け入れた外国人材の定着の推進
(a) 地域・政府・企業における積極的対応の必要性。以下長いが引用する。
そこで、生活者としての外国人を支援するとともに、こうした問題に伴う否 定的なイメージを払拭するために、民間企業、自治体、国際交流協会、NPO等が連携して、外国人のための住宅の確保をはじめ、外国人向けの情報提供の 充実や生活相談、また外国人自身やその子供に対する日本語教育の強化等、地域における受入れ体制の整備をさらに進めていくことが求められる。
また、受 け入れた外国人が安心して生活・就労できるようにするために、医療、年金等の社会保障制度を改善し、セーフティネットを適用することをはじめ、政府・ 自治体による積極的・包括的な支援措置が不可欠である。また、就職先となる企業においても、外国人が働きがいを感じうる仕事と適切な処遇を提供できるよう就労環境を整備していくとともに、社内においても 外国人材の受入れに対する意識改革等を進めていくことが重要となる。
その上で、受け入れた外国人材のなかで、日本社会への定住を希望する者に対しては、教育、雇用、社会福祉等といった社会統合政策を通じて、わが国の 文化や社会への理解を深め、日本語能力の向上を図った上で、永住権の積極的な付与など、法的地位を安定化していくことが求められよう。同時に、在留・就労管理を徹底することによって、適法に在留している外国人に対しては、各種行政サービスの向上を図りつつ、不法滞在者等に対しては、日本国民にある外国人受入れに対する治安面等での懸念を払拭するために断固 たる対応をとることも必要となる。
(b) 中長期的な外国人材の受け入れ規模 これも引用。
中長期的な外国人の受入れ数について、いくつかの試算が出されている。仮に、現在の総人口の規模や生産年齢人口数を維持しようとすれば、相当規模の外国人の流入が必要になる。国連の試算10では、2050 年時点で総人口のピーク 時(2005 年)の水準を維持するために必要な外国人流入数は、累計で 1,714万 人(年平均 38 万人程度)と推計されている。また、経済産業省の試算11でみて も、生産年齢人口のピーク(1995年)を維持するためには、単純計算で 2030 年までに約 1,800 万人(年平均 50 万人程度)もの外国人を受け入れる必要が生じるとしている。
さてツッコミどころ満載だが、順番に片付けていく。
(1) 成長力の強化
持続的な経済成長は、所得の増加や雇用の創出を通じて、人々に豊かな暮らしをもたらす基盤となる。
ここ笑うところ? 賃下げ、派遣切りで思い切り社会不安を作り出した元凶が何をふざけたことを。
①研究開発活動の促進
今後、わが国の研究開発投資を拡大していくためには、企業の研究開発投資 に焦点を当てた政策税制の充実が最も有効である。
また企業減税かよ。何のために内部留保を400兆もためこんでるの? まさしく研究開発に投資するためでしょうが。一社でまかなえねえんだったら複数社で共同開発すればいいだろ。どこまで税金を搾り取るつもりなんだよ。
②イノベーションを担う人材の育成と招聘
とくにアジアの優秀な学生をひきつけ、高度人材の育成力を高めていくことが急務である。
なんでアジアなんだよ? アジアのどこだよ? 阿保かこれが中国人を意味していることは馬鹿でもわかるわ。アフリカや中東はどうした。世界中で取り合いなんだから出身国の選り好みをしてる場合か。
③世界の成長力の取り込み
EPA/FTAを締結して欲しいんだろ。その方が商売スムーズにいくし、原材料や中間製品の輸出入も安くなるし。取り繕ってんじゃないよ。
④地域の活性化と道州制
そりゃ国家を相手にするより道州に分割した単位に陳情した方が効果は高いわな。いざとなったらよそへ移る! と脅しをかければいいんだから。国外へはおいそれと出て行けなくても道州間なら簡単だしな。
(2) 未来世代の育成
①少子化対策への真剣な取り組み 何ひとごとみたいに「要請」してんだよ。てめえらの生産性を上げるためだろ。まず身銭を切れよ。社内保育、在宅勤務、フレックス勤務を正しい形で導入したらどうだ。それと労働時間は一日八時間だ。なんでも行政にたかるんじゃねえ。
②教育の再生
また、子供一人当たりの教育費の増加などの経済的な理由から、はじめから 子供を持つことをあきらめてしまったり、本来望んでいる数の子供を持てない といった声も多く聞かれる。
給与が安いからですよ。特にお金がかかるのは高校、大学ですが、授業料などの値上げは天井知らずです。意図的に話をそらせて行政に責任をかぶせていますね。
(3) 経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保
①女性の社会進出の促進
これ昔から言われてるけど、コストがかかるからちっとも実現しませんね。企業自身やる気ないもの。自分たちがまず改革を進めたらいかが。
②国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討
(a) 高度人材の積極受け入れ
これは確かに必要です。で、企業として何をどうするわけ? 自分が欲しがってる人材なんだから、まず自分たちがどのような改革を行ったかを示すべきでしょう。
(b) 留学生の受け入れ
今度は大学、大学院頼みかよ。日本の学生は大学の教育と企業が欲しい人材のミスマッチが起きているから採用できないとか散々批判しておいてこれですか。企業としての施策を示したらどうなんだ。
(c) 一定の資格・技能を持つ外国人材の受け入れ。
日本人より安い給与で働くと思ってるんだ。まあ働かせるんだろうけど、その結果何が起きるかリスクをまったく想定していないのは論評に値しない。
③受け入れた外国人材の定着の推進
(a) 地域・政府・企業における積極的対応の必要性。
さりげなく、最もコストのかかる医療費や年金等の社会保障費やセーフティネットについて行政丸投げってどういうことだ。企業が欲しい人材なんだろ。企業が自分で面倒を見ろ。
(b) 中長期的な外国人材の受け入れ規模
国連や経産省の統計資料という形で客観性を装って、移民大量受け入れを認めさせる狡猾な手口。「②国際的な人材獲得競争と日本型移民政策の検討」の「(c) 一定の資格・技能を持つ外国人材の受け入れ。」で単純労働者の受け入れに含みを持たせているのはここに繋がる。「なんせ人がいませんから。やむをえませんなあ」とする伏線に過ぎない。ここでもそんなに大量の移民を受け入れてしまった場合の社会コストの負担について何も言及しない。
そう提言全般についてコストのかかるところは行政まかせ、丸投げで負担を逃れようとし、上澄みのおいしいところだけをもらっていこうというのが経団連の提言なのです。そしてそのコストを負担するのは結局我々国民です。経団連は手始めに「消費税を福祉目的税として税率を10%に引き上げるよう」求めていますが、これは企業の社会福祉負担を軽減するための最初の攻撃です。ご存じのように健保や年金等は会社と従業員が折半して支払っています。その会社折半分を消費税ということで置き換えて貰いたいのです。400兆溜め込んでてまだ溜め込むつもりです。呆れてものもいえません。今や経団連は財界を代表して政府、自治体にたかれるだけたかろうとしているのです。我々はそんな企業の身勝手を許してはなりません。